歌詞の意味を考える ~「木綿のハンカチーフ」編~

曲のタイトルからして秀逸です。

誰もが知る往年の名曲
木綿のハンカチーフ」の歌詞考察。

1975年のリリースの
太田裕美さん最大のヒット曲ですね。

作詞は松本隆さん
作曲は筒美京平さん。

この御二方は最強タッグでしょう。
数々のヒット曲があります。

曲の構成としては4番まであり
男女の心情が交互に、掛けあいのようになっている状態です。

シンプルながら、非常に奥行きのあるストーリーなんですよ。

なぜ「木綿のハンカチーフ」というタイトルなのか?

早速いってみましょう。

あくまで僕の個人的な解釈なので。
悪しからず。

恋人よ ぼくは旅立つ 東へと向かう列車で
はなやいだ街で君への贈りもの 探す 探すつもりだ

いいえ あなた 私は欲しいものはないのよ
ただ 都会の絵の具に染まらないで帰って
染まらないで帰って

恋人よ 半年が過ぎ 逢えないが泣かないでくれ
都会で流行の指輪を送るよ 君に 君に似合うはずだ

いいえ 星のダイヤも海に眠る真珠も
きっと あなたのキスほどきらめくはずないもの
きらめくはずないもの

恋人よ いまも素顔で くち紅もつけないままか
見間違うような スーツ着たぼくの写真 写真を見てくれ

いいえ 草にねころぶあなたが好きだったの
でも 木枯らしのビル街 からだに気をつけてね
からだに気をつけてね

恋人よ 君を忘れて変わってく ぼくを許して
毎日愉快に過ごす街角 ぼくは ぼくは帰れない

あなた 最後のわがまま贈りものをねだるわ
ねえ 涙拭く木綿のハンカチーフください
ハンカチーフください

木綿のハンカチーフ / 松本隆

1番

恋人よ ぼくは旅立つ 東へと向かう列車で
はなやいだ街で君への贈りもの 探す 探すつもりだ

冒頭から恋人へむけた言葉だということがわかります。

文字通り東にむかって旅に出るわけではありません(笑)

時代は1975年。

この頃、東が指すものは「東京
そして旅立つ理由は「就職」です。

歌詞の意味を考える ~「なごり雪」編~
でも書きましたが、

当然スマホなんてないし
交通網の事情もあり、そう簡単に会いにいけない時代です。

当時、故郷を離れ東京に行くということは
物理的な別れだけでなく心理的な別れにもつながりやすかったでしょう。

寂しさを紛らわすためか
はなやいだ街=東京で君への贈りものを探すよ、
と慰めの言葉を伝えています。

ここまでが男性目線の歌詞ですね。
今回はわかりやすく男女で色分けしています

いいえ あなた 私は欲しいものはないのよ
ただ 都会の絵の具に染まらないで帰って
染まらないで帰って

故郷に残る恋人(女性)側からすると
都会の贈りものなんていらないわ、と。

とにかく別れが辛い。だけどあなたの将来のためでもある。
だからせめて都会に染まらないで、と。

つまり変わらないでと伝えています。

この“変わらない”というところが曲全体を通しての重要なテーマになります。

2番

恋人よ 半年が過ぎ 逢えないが泣かないでくれ
都会で流行の指輪を送るよ 君に 君に似合うはずだ

東京に就職し、半年が経ちました。

何度も言いますが、そう簡単に会える時代ではありません。

当時、コミュニケーションの手段は
手紙」「固定電話」です。

現代のカップルの半年と
当時のカップルの半年とは
時間の重みがまるで違います

どうか泣かないで、と。
指輪を贈るんですね。

この指輪が1番で出てきた「君への贈りもの」なんでしょう。

いいえ 星のダイヤも海に眠る真珠も
きっと あなたのキスほどきらめくはずないもの
きらめくはずないもの

それに対し女性側は
どんな宝飾品もいらない、と。

とにかくあなたに会いたい。
あなたのキスほど魅力的なものはない、と返します。

会えなくなり半年経っても
まだお互いに気持ちがある状態に見えます。

3番

恋人よ いまも素顔で くち紅もつけないままか
見間違うような スーツ着たぼくの写真 写真を見てくれ

なんだか雲行きが怪しくなってきました・・・。

3番なので時間的には半年以上経っていることは確実です。
仮に7〜8ヶ月くらいと考えましょう。

いまも素顔で くち紅もつけないままか
は、君はまだ変わらないのかということを表現していますね。

この文章だけだったら二通りの解釈ができると思います。

一つは
「僕は都会で忙しくしているけど、君はまだ純粋なまま変わらないでいてくれるよね?」
という期待

もう一つは
「僕はこんなにも都会っぽくなったのに、君は相変わらず垢抜けないのか」
というちょっとした自慢と蔑み

さて、どちらでしょう?

見間違うような スーツ着たぼくの写真 写真を見てくれ
この一文でハッキリしますね。

彼は自分のスーツ姿の写真を送りつけます。
見てくれ、とまで言っています。

つまりスーツ着たぼく=都会っぽくなったカッコイイ俺
という意識です(笑)

よって「君はまだ化粧もせず垢抜けないのか」という解釈。

この時点で
彼の気持ちが少しずつ彼女から離れつつあることが窺えます。

現代の感覚だと写真を送りつけるなんてキモっみたいになると思うんですが
当時はなかなか会えない時代。

近況報告がてら写真を送るなんてのはザラでした。

だからといって
ドヤ顔のスーツ姿送られてもね(笑)

いいえ 草にねころぶあなたが好きだったの
でも 木枯らしのビル街 からだに気をつけてね
からだに気をつけてね

純真無垢な彼女です。

「私はあなたの素朴で純粋なところが好きなの」と。

さらに都会で頑張る彼の健康も気にかけます。

木枯らしの〜とあることから
真冬ではない時期であることがわかります。

3月に地方を離れて7〜8ヶ月なら10月か11月。
まぁそんなもんでしょう。

ここで二人の温度差が出てきました

ちょっと都会に染まって彼女から気持ちが離れつつある彼。
彼の変化に気が付きつつも、変わらず純粋に彼を想い続ける彼女。

4番

恋人よ 君を忘れて変わってく ぼくを許して
毎日愉快に過ごす街角 ぼくは ぼくは帰れない

いよいよハッキリしましたね。
完全に自白です。

僕は君を忘れて都会に染まった
許して、とまで言っています。

都会の暮らしは地方とは全く違うものです。
特に、当時は今以上に都会と地方の差がありました。

地方にはない娯楽・人間関係
そういったものに完全にハマってしまったようです。

そして注目すべきは帰れないの部分

ない、ではなく
ない。

たったこの一文字で

  • 自分の意思ではどうにもならないほど都会の魅力にハマり、地方なんかに戻る気はないという突き放し
  • 地方に置いてきた恋人に対する申し訳なさ後ろめたさ

を表現しています。

このへんは日本語の妙というか。
素晴らしいですね。

前述の『なごり雪編』でも
一文字の違いが重要な表現になっています。

おそらくですが、この彼は東京で新しい恋人ができたんでしょう。

そして“大人になった”はずです。
つまり女性を経験したってこと。

当時は
婚前交渉はしないみたいな人もまだまだ多かった時代です。

地方の垢抜けない恋人とのプラトニックな恋愛より
都会のいい女(?)との燃えあがるような大人な関係に、

すっかりほだされてしまったんです。

僕の同級生にも同じような奴がいました。

男ってバカなんですね(笑)

あなた 最後のわがまま贈りものをねだるわ
ねえ 涙拭く木綿のハンカチーフください
ハンカチーフください

彼女は最後にわがままを言います。

最後「の」とありますが
ずっとわがまま放題の彼女だったわけではありません。

1番からの
「都会の絵の具に染まらないで帰って」
「指輪よりあなたのキスがいい」
「からだに気をつけてね」

これらの“ささやかなお願い”をわがままとしているんです。
都会で仕事を頑張っているあなたに私の一方的な思いをぶつけてゴメンね、と。

そして最後に木綿のハンカチーフをねだります。

もうね、凄すぎでしょ。
これが曲のタイトルですよ?

ここまで聞いて・ここまで読んで
初めてタイトルの意味がわかるっていう。

この木綿のハンカチーフは
ただ単に涙を拭く用ではないでしょう。

ここにも二人の温度差があらわれています。

彼のほうが気持ちが冷めて一方的に別れを告げたんです。

彼女のほうもそれで諦めて次の恋愛に前向きになるんだったら
ハンカチーフをねだる必要はありません。

どちらかというと女性のほうがサッパリしているからね。

彼女はまだ諦めきれない・踏ん切りがつかないから
彼からもらったものを思い出として持っておきたいんです。

もしかしたら彼の優しさを試す意味もあったのかもしれません。

別れの決心をしても彼女のことを思って
最後のリクエストに応えてくれる、

そんな優しさが残っているかどうかを。

最後に

非常に奥行きのあるストーリーでした。

変わってしまった彼
変わらなかった彼女

この対比がテンポよく表現されていて
非常に素晴らしいです。

よくもまぁ、こんな歌詞が書けるなぁと。

ネット上では「彼」に対して
ひどい男って話もあるようですが、

当時の時代背景を考えたら仕方ないのかな、と。

前述したとおり、物理的な距離が心の距離になった時代だから。
1950年代までに生まれた世代なら、ピンとくる感覚ではないでしょうか。

「彼」には「彼」なりの事情があり、苦悩・葛藤もあったはず

そう思いたいものです。

「彼」と「彼女」の心情を考えながら改めて聞くと
グッと響く良曲です。

曲を聞いて涙が出たら?
木綿のハンカチーフを使ってください(笑)

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